諦めずにやり切る素晴らしさ、尊い精神を、トライアスロンから学びました。
地域医療連携室で社会福祉士・精神保健福祉士として働く加世田和博さんは、16年前からトライアスロンを始め、毎年、九州管内で行われる大会に参加しています。年を追うごとに自身の記録を更新し、元オリンピアン、国体選手などのトップアスリートも参戦する中、常に60~100位内に入る有名人。すべてに全力投球の加世田さんに、仕事、トライアスロン、種子島で暮らす魅力についてうかがいました。後編ではトライアスロン、種子島での暮らしについて語っていただきます。
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—— トライアスロン歴は長いそうですが、なぜ、このスポーツを始められたのですか?
トライアスロンは今年で16年、父親が亡くなった年齢で始めました。父親には腕相撲でも勝ったことがなくて、自分の中で“親父越え”できるものはないかと考えていたときに、鹿児島の指宿でトライアスロンがあることを知って参戦することにしたんです。家族には「指宿旅行に行こう!トライアスロンに出るから温泉入ってこよう!」って軽い感じで伝えたら小学生だった子どもたちは「うん、行く」って(笑)。
—— 水泳(スイム)、自転車(バイク)、マラソン(ラン)の3種目を継続して競い、鉄人レースと称される過酷なスポーツですよね。経験なしでも参加できるのですか?
スイム1.5km、バイク40km、ラン10kmのスタンダードディスタンスであれば誰でも参加できます。20歳くらいからサーフィンをしていたので海は怖くなかったし、自転車も漕げるし、学生時代はサッカー部で常に10kmくらい走っていたのでランも行けるでしょう!と出場しました。
ところが、スイムでは海で溺れそうになり、ようやくたどり着いたと思ったらバイクでヘトヘトになり、ランでは脚がつってしまって。見ていた家族は海岸にたどり着けるか心配だったそうです。おぼれているんじゃないかって(笑)。
—— そこでやめようとは思わなかったんですね。
情けない初レースでしたが、完走できて意外と頑張れるもんだなと。ただ、散々な内容だったので、これでは親父に笑われると思い、カラダづくりのために食事も生活も変えて翌年リベンジしました。それからは毎年のように「指宿トライアスロン」(現在は開催していません)に参加し、九州管内各地のトライアスロン大会にも参加するようになり、すべて完走しています。
トライアスロンの面白さは、スイムで出遅れてもバイクとランで取り返すことができ、自分でレースプランを考えながらやれるところです。海、山など自然の中で行うスポーツなので、その時の気候や環境が大きく影響します。レース変更も何度もあって、その都度、状況を判断してレースプランを組み直したり、道具や補給準備などを変えたりしなくてはなりません。毎回、上手くいったり、いかなかったり…。山あり谷あり…、人生みたいです。
—— これまで印象に残っているトライアスロンの大会はありますか?
![]() | 天草宝島国際トライアスロン(審判として参加) 指宿トライアスロン(S1.5㎞・B40㎞・R10㎞) 宮崎ワールドトライアスロン(S1.5㎞・B40㎞・R10㎞) 宮崎シーガイアトライアスロン(S1.5㎞・B40㎞・R10㎞) 福岡トライアスロン(S1.5㎞・B40㎞・R10㎞) 徳之島トライアスロン(S2.0㎞・B75㎞・R21㎞) 五島長崎国際トライアスロン(S3.0㎞・B154.8㎞・R42.2㎞) |
これらのどの大会も印象的ですが、2024年に参加した「五島長崎国際トライアスロン」は忘れられません。当日の天候は大荒れでスイムは中止となり、バイクからのスタートでした。80㎞ほど走行した時、前が見えないくらいの大雨の中、突風に煽られて転倒しそうになって。バイクシューズが破損し走行不能になりかけたところに救世主が現れたんです! 同じくらいのペースで走っていた人が、転倒しそうになった私に気づいて、バイクを止めて、私の所まで駆け寄ってくれ、膝に巻いていたテーピングを外して私のバイクシューズの応急処置に使わせてくれました。おかげで命拾いし、残り80kmのバイクを無事に走り切り、ランにつなげることができました。10時間程かかりましたが、彼がいなければ完走できなかった大会でした。(※上の写真がその時の様子、足先にテーピングを巻いています。)
—— 苛酷にもかかわらず、続ける魅力がトライアスロンにはあるんですね。
自分との闘いなので毎回すごくしんどいです。それでも完走するとつらかったことがクリアされて、これまでやってきたことは間違いじゃなかったと思えるんです。でもそれ以上に、大変な状況でも困っている仲間を助け、一緒にゴールを目指すトライアスリートたちに受け継がれている尊い精神に魅了されているのかもしれません。
一般にフィニッシュテープは勝者しか切れませんが、トライアスロンではフィニッシュしたひとりひとりがテープを切ることができます。これは他のスポーツには見られない珍しい光景です。トライアスロンには、「完走者は全員勝者」という参加者をリスペクトする精神があり、このトライアスロン精神は私たちの誇りです。
—— マラソン大会にも参加されているのもトライアスロンの延長ですか?
同時に本格的にマラソンも始め、2年前からは大会に参加しています。最終的にトライアスロンのロングディスタンス※に出たかったのと、マラソン仲間からマラソン大会にも出てみたらと言われたのがきっかけです。2023年3月に初めて参加した「鹿児島マラソン」では3時間8分で走れたので、どうせなら3時間切りを目指そうと2024年2月の「別府大分毎日マラソン」に出場し、タイムは2時間59分と、なんとか目標を達成できました。
※ロングディスタンスとは、スイム3km以上、バイク91km以上、ラン22km以上の国内最長距離、競技時間のレース
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—— トライアスロンを通じて世界がどんどん広がっていますね。大会に向けてトレーニングや体づくりはどうされているんですか?
年間通してトライアスロン以外にも地域の大会もあるので、それに参加することでモチベーションが維持されるし、トレーニングにもなっています。
普段は、気の向いたときに朝ジョグをしたり、大会前は仕事が終わってからグラウンドに行って早めのジョグをしたりしています。昔は朝、毎日のようにサーフィンに行っていましたが、最近は体幹トレーニングを兼ねて行っています。種子島医療センターではサーフィン部に所属しているので、サーフィン部のメンバーと一緒にサーフィンすることがリフレッシュになっています。
休みの日も寝てられないんです(笑)。朝早く起きて走りに行ったり、今朝も1時間くらい走ってきました。その方が体の調子が良くて楽しい。だいたい月に250kmくらい走りますね。走る人は300~400kmは走りますから私はまだまだ少ない方です。
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—— 体調や食事の管理はどうされていますか?
苛酷に追い詰めるから自分を見つめる。トライアスロンを始めてから自然とそうなりました。ここ7年くらいは、睡眠から心拍数、身体のエネルギー残量、ストレスレベル、運動量、身体のバランスまで全てチェックしています。身体がどれくらい元気か、ストレスレベルまで、寝てから回復まですべてアプリを使って体の状態を管理し、ストレスがかかっているときはよく寝てよく食べ、ベストな状態を維持できるように調整しています。
普段の食事はタンパク質をメインに、納豆ばかり食べています(笑)。大会前はエネルギー切れをしないよう炭水化物を多めに摂るようにしています。おかげで健康診断はいつも良好で、何も問題ありません。
—— 仕事もプライベートも全力投球ですね。両立の秘訣を教えてください。
自然と身体がそうなってきます。ロングディスタンスの大会に出た後も、鹿児島マラソンに参加した時も次の日はいつも通りに仕事をしていました。
筋肉痛がつらいことはありますが、普段から体の調子を見ながら練習を軽めにしたりとかして調整しているので、怪我や病気をしたりすることはありません。たとえ仕事でしんどいことがあっても、運動をすることで気持ちを切り替えて前向きになれるので、両立というよりも相乗効果の方が大きいですね。
—— 加世田さんを見守ってきたご家族の反応はどうですか?
子どもたちが小さい頃は、家族旅行を兼ねて大会に参加していたので、ひとりでさくっと終わらせて、夜、家族と合流するのが楽しみでした。
今では家族も慣れて「自由にやってください」と言う感じですが、一昨年の福岡トライアスロン大会には応援に来てくれました。最近、娘がマラソンに挑戦したいと言いだして、今年の鹿児島マラソンは娘のペースメーカーとして一緒に走ることになりました。
妻は食事管理してくれたりスポーツドリンクを補充してくれたり、日々サポートしてくれます。大会にも気持ちよく送り出してくれるので感謝しています。実は妻も走り始めて、鹿児島マラソンではファンランに参加します。
—— 毎日が充実していて人生を楽しむ姿に、ご家族も影響を受けているんですね。これからも続けて行かれますか?
トライアスロンは、持っている能力のすべてを発揮し、更新していくスポーツなので、年はとっていきますがタイムは上がってきているんです。
大会には2時間ひと桁台で完走する元オリンピアンや国体選手といった一流の選手も参加します。そのため順位50位内に食い込むのは難しく、いつも60~100位の間を行ったり来たり。それでも、2023年の福岡トライアスロンでは2時間20分台まで縮めることができました。今年は徳之島トライアスロンにリベンジしようと思っています。
トライアスロンは、自分の限界に挑戦し、諦めずにやり切ることの素晴らしさ、まだまだ成長できることを教えてくれました。それに大会ではステキな人との出会いがあります。トライアスロンを通して知り合いが増え、世界が広がったので、続けられる限り挑戦していきたいです。
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—— 種子島での暮らしも気になります。最後に地元、種子島の魅力とみなさんへのメッセージをお願いします。
何といっても海に囲まれた自然豊かな離島で暮らすのは最高です。日々の業務は忙しいですが、休日は自然の中で運動したり、のんびり過ごしたり、高速船に乗れば90分で鹿児島市に出かけることもでき、自分の好きなことをしてリフレッシュできます。
私にとって種子島は、仕事もプライベートも全力で取り組め、自分らしく生きられるところです。そうした生き方を求めてやってくる移住者も多く、「種子島の人はよく声をかけてくれて、親切で温かく、住み心地がいい」という声をよく聞きます。
また、当院では急性期から回復期、在宅医療等においても幅広く対応しており、本土では体験できないことが、離島医療を通して経験できるのも種子島生活の魅力だと思います。医療従事者として働いてみたいという方は、ぜひ一度お越しいただければと思います。お待ちしています。
—— トライアスロンがすべてに繋がって、加世田さんの人生を充実させ、高みへ導いているように思いました。素敵なお話をありがとうございました。