理学療法士インタビュー「転倒予防指導士の資格を取りました」

転倒を防いで怪我から守ることも理学療法士の役目です

 

高齢者にとって寝たきりや死亡の危険な要因となる転倒転落事故。いろんな場所で起こっていますが、意外と多いのが入院中の事故です。そこには病院という特殊な環境や薬による認知機能の低下など、転倒転落を引き起こす危険性がはらんでいるからです。当センターの理学療法士で転倒予防指導士でもある末吉優紀乃さんに、院内の転倒転落事故への取り組みや資格を取得した理由についてうかがいました。

 

 

― 転倒予防指導士とはどのような資格ですか。

 

転倒による骨折や外傷、その後の寝たきりや介護量を減らすことを目的に、転倒予防に関する専門知識と技術を持つと認められた人に与えられる資格です。

 

あるレポートによると、骨折は60代から急激に増え、70代80代が最も多く、高齢者にとって寝たきりや死亡の大きな要因になっているほど、転倒による骨折や外傷のリスクは高いんです。

 

高齢者の転倒事故を引き起こす原因として意外と多いのが、入院などによる環境変化によるものです。高齢者は筋力や運動機能が低下しているうえに、認識力の低下が加わるため、いつもと違う環境に対応できずに転倒や転落しやすく、当センターでも月に10件弱の「転倒・転落」の報告がありますので、転倒予防指導士の役割は大きいと考えています。

 

― 入院中の転倒・転落には、どのようなケースがありますか?

 

昨年、手術したばかりの患者さんが、自分ひとりでトイレに行こうとして転倒し、怪我をしてしまうというケースがありました。トイレくらい一人でも大丈夫だと思いがちですが、手術後の身体の状態はこれまでとはまるで異なります。トイレに行きたくて焦っているのに思ったように足に体重がかからず、転んでしまうというケースが多くあります。

 

最も気を付けなくてはいけないのが、夜間のトイレです。病院と家ではベッド周りの環境などが違ううえ、薬などで意識が朦朧としていたり、突然の環境の変化に順応できず転倒転落を起こしやすく、若い人でも転んでしまいます。入院にはこうした危険性がはらんでいることをご本人やご家族に理解していただくことはもちろん、院内においては転倒転落を起こさない環境づくりがとても大事です。

 

― そうしたところに転倒予防指導士の役割があるんですね。

 

右半身が動かない患者さんの場合は家具を右側に配置し、動ける左側にはものを置かないようにしたり、身体が動く側に手すりをつけたり、また、床にものを置かないだけで随分と危険を回避できます。

 

当センターでは私たち理学療法士も入院時から患者さんに関わることが多いので、普段から看護師さんと相談しながら患者さんの履物やベッド周辺の物の配置といった環境面をチェックし、整えていますが、転倒予防指導士の資格を取ったことで、より視点が広がったように思います。

 

例えば、資格を取ったことで薬の副作用が転倒転落を引き起こすことが多いことを知り、眠気が起こりやすい薬や利尿剤など、患者さんがどの薬を服用されているかについても気を配るようになりました。また、こうした情報は看護師さんにも伝えて、いつも以上に気をつけてもらうようにしています。

 

 

― そうした知識や認識は患者さんにも必要ですね。

 

当センターでは「転倒転落防止委員会」などを設置して、入院中の患者様の転倒・転落を1件でも防ぎ、転倒・転落しても骨折などの大きな受傷にならないようにさまざまな活動を行っています。

 

具体的には、多職種の医療チームスタッフがそれぞれの専門性を活かしてリスクの分析評価を行い、患者さんごとのケアプランを検討したり、啓蒙活動として職員のための院内研修を開いたり、患者さんにも理解していただけるようにポスターを作ったりしています。

 

実は患者さんが転倒転落で怪我されて病院にこられるたびに、理学療法士として転倒事故が起きてから対応するのは遅いんじゃないか、怪我をしてから治療をするだけではなく予防することも私たちの役割じゃないかと考えるようになりました。

 

― それで転倒予防指導士の資格を取ろうと?  

 

この資格を知ったのも、転倒転落予防ワーキングループに所属したことがきっかけです。私も小さい頃からよく転んで怪我をしていたので、入職1年目の時に歩行速度を測り転倒リスクを分析する研究発表に参加させていただくなど、転倒転落予防には興味がありました。

 

入院中だけでなく患者さんがご自宅でも安全に過ごしていただける手助けができるようになりたいと思っていたところコロナ禍になり、WEBで資格を取れるようになったので昨年の2月にチャレンジしました。

 

 

― コロナ禍は資格取得にとって好機となりましたね。

 

はい、この機会を活用させていただきました。講義は転倒予防の基本理念から始まり、2週間かけて転倒予防の現状と転倒後の外傷、転倒のリスク評価、運動療法、さらに、転倒に関係する疾患や認知症者の転倒予防、病院、福祉施設および地域社会での転倒予防方法について学びました。

 

本来なら講義を受けに島外へ出向く必要がありますが、今回はオンデマンドで講義を受けられ、ズームを使って討論会を行った後に筆記試験を受けることができました。

 

ですが資格を取得して終わりではありません。資格を維持していくには、取得後5年の間にいくつかの講習会を受け、さらに研究発表をする必要があります。ですが、どれも興味深く、ためになる講義が多く、そもそもこれらの講義が受けたくて資格を取ったというところもあります。新たに得た知識や技術を丸ごと種子島の皆さんに役立てていけたらいいなと考えています。

 

― 今後やりたいことや夢がありましたら教えてください。

 

もともと「地域に根ざした病院」というところに惹かれ、種子島医療センターに入職しました。患者さんたちが健康で安全に普通の生活を過ごせるためのリハビリテーションを提供するために、将来的には他の施設とも協力しながらお家で楽しく過ごしてもらうために何ができるかというのを、転倒予防の面からも関わっていけたらいいなと思っています。

 

― 転倒予防指導士の資格を取りたいと考えている人に一言お願いします。

 

転倒転落事故を予防するためには、多くの医療従事者に取っていただきたい資格です。現場で実践しながらの勉強は復習にもなり、身に付きやすいので、資格取得は効率的だと思います。そして何よりも患者さんやご家族に、転倒予防指導士という資格があり、こういう人たちがいることを知ってもらいたいと思っています。

 

― これからもがんばってください。ありがとうございました。