種子島は、鉄砲伝来の歴史と最先端科学の象徴であるロケット基地、そして美しい大自然が同居する稀有な島です。私は、平成26年4月からこの種子島の中核医療を担う義順顕彰会・種子島医療センターに赴任いたしました。
種子島の離島医療は、田上容正先生によって創設された小さな診療所から始まり、住民のニーズに合わせて診療科目を増設しながら、50年の間に総合病院へと発展してきました。リハビリテーションセンターの設置、在宅療養のサポート、高齢者、障害者に対する在宅医療支援など、地域密着医療の実践に並々ならぬ努力と忍耐が費やされてきたことは想像に難くありません。これまでの種子島医療センターの医療活動は、この地における中核医療機関としての役割を十二分に果たしてきたと言っても過言ではないでしょう。
種子島医療センターにおける診療の特徴をまとめてみると、以下のことが挙げられます。
- 総合病院として外来患者が毎日平均500名で入院患者平均180~200名の診療を行っている。
- 島民の高齢化を受けて患者の7~8割が高齢者である。
- 救急患者をすべて受け入れる救急センターの役割を担う種子島唯一の医療機関である。
- CT(320列)、MRI(1.5テスラ)など画像診断システムが充実し、各種検査機能が揃っている。
- 鹿児島大学病院との連携診療が行われている。
- 腹腔鏡下手術が導入されている。
- 医療安全管理委員会やリスクマネージメント委員会等、各種委員会をほぼ毎日開催し、また勉強会、研修会が頻回に行われている。
- 新進の医師と、経験豊富な老練の医師とが、協調して診療にあたっている。
- 医療従事者が種子島以外の全国各地から集まっている。
平成23年から社会医療法人として病院運営が開始され、その一環としての種子島産婦人科との連携は極めて大切なへき地医療貢献です。年間300人以上に及ぶ赤ちゃんの誕生が叶えられています。
また、婦人科手術へは本院の麻酔科、外科の先生方による協力・支援が続けられています。平成27年度には産婦人科診療所の新築が予定されており、本院との連携はさらに深くなっていくと予想されます。また、平成27年4月からは屋久島の栗尾診療所へ皮膚科が週1回の診療に伺います。少しでもお役に立てばとの思いからです。へき地医療への貢献を更に加速させていきたいと考えています。
熊毛郡の中核医療機関として、新しい医療システム・技術・機器を導入していくことは必須です。種子島医療センター職員の研鑽と技術の向上が大切なことは言うまでもありませんが、地域がん診療病院として病理部の新設、地域包括ケア病棟の設置と充実、緩和ケア病棟の新設、各科の研修病院として充実することなど、数々のハードルがあります。このためには鹿児島大学病院をはじめとする多くの医療機関との連携が極めて重要であることは言うまでもありません。また、高齢化社会への急激な推移により、島民の皆様の医療に対する期待も変化しています。これは日本全国の医療福祉の課題でもあり、これらの多様化したニーズへの対応と高度な医療技術との調和をどのようにしていくかが、これからの種子島医療センターの課題であると思います。
種子島は本土に近いにもかかわらず、まるで手つかずの大自然が生きている島です。その美しい海ではダイビングやシュノーケリング等のマリンスポーツを楽しむことが出来ますし、中でもサーフィンはそのメッカとして広く知られています。種子島医療センターはサーフィン同好会のある病院としても有名で、サーフィンをするために全国各地から就職してきた職員も少なくありません。海に囲まれた種子島では釣りも盛んですし、種子島宇宙センターからのロケット発射を臨める種子島ゴルフ場は、ゴルフ愛好者に闘争心を湧き立たせるゴルフ場です。
因みに本院はJAXAの救急指定病院として役割を果たすことになっていますが、幸いにもロケット発射事故は起こっていません。また、屋久島を含む熊毛郡地域では野球、バレーボール、卓球そしてサッカーなどの球技が広く親しまれています。昨年は種子島中学野球部が全国制覇を果たしました。
種子島医療センターは多くのスポーツ活動をサポートしており、職員による人的貢献は高く評価されています。中でも種子島サンセット車いすマラソン大会は、本院のリハビリテーション室を中心に15年以上続いている感動的な国際大会として有名です。本院では、医療従事者として心豊かな生活をおくるために、Work-Life Balanceを積極的に奨励しています。
最後になりましたが、年報誌「飛魚」は創設者の田上容正先生が二十数年前に種子島らしさと飛躍するイメージを籠めて、命名した名称と聞いています。「飛魚」は種子島・屋久島近海で獲れる海産物として有名で、「とっぴー」と呼ばれています。地域医療に貢献する時、離島医療を考える時、高度な医療技術の導入を工夫する時、種子島の医療に携わる誰もが共感する名称であると思います。そして、常に進化する地域離島医療を目指して「飛魚」のように飛躍する病院こそ種子島医療センターの願いです。
髙尾 尊身