
先般、NHKで”断らない病院“のリアルが放映されました。「リアル」と名付けられた番組が、必ずしも現実の全体像を正確に反映しているとは限りませんが、献身的な医療従事者の努力にもかかわらず病院が赤字に陥る現状は、日本の医療制度が抱える根深い問題を浮き彫りにしています。医療は、警察や消防と同様に、社会に不可欠なインフラであり、その公益性が十分に評価されていないことに問題があります。
医療行為に対する対価である診療報酬が低く設定されているため、多くの医療機関が経営難に直面しています。低い診療報酬は、医療機関に効率化を求める圧力をかけ、結果として医療従事者一人あたりの負担を増大させています。過労は医療ミスのリスクを高めるだけでなく、医療従事者の離職にもつながり、医療提供体制の維持を困難にしています。
国は医療行為の複雑性や専門性、医療従事者の労働に見合った診療報酬体系に見直す必要があります。とくに、救急医療や急性期医療など、公益性の高い分野への重点的な配分は喫緊の課題です。
本院で、年間3000名以上の救急患者、1000台以上の救急車搬送を受け入れ、「断らない救急」を実践していることは、まさに離島医療の奇跡であり、院長として、職員の尽力に深く敬意を表します。
心肺停止に近い状態の患者さんに対し、当直医が初期対応を行い、深夜でも専門医を呼ぶべきか、あるいは三次救急病院へのヘリ搬送が必要かといった迅速なトリアージは、まさに高度な判断とスキルが求められるものです。また、入院加療を要する患者さんに対して応急治療を行い、専門医にコンサルテーションする体制も、離島医療での質の高い継続的な医療提供を物語っています。
離島の「断らない病院」は、高い医療レベルを持つ医師および看護師によって支えられているのです。種子島の本院が、それを実行している数少ない病院の一つであるという事実は、決して過大評価ではないでしょう。
病院長 髙尾 尊身