世界大百科事典によれば、収入だけでは家賃をまかないきれなくなると、黒人たちは相互扶助運動として〈家賃パーティ〉をおこし、入場料と飲食費から利益をひねり出して家賃の支払にあてたという。このパーティではピアノが使われ、打楽器的ブルース・ピアノ奏法〈ブギウギboogie woogie〉が生まれた。
今から約75年前、敗戦の悲嘆に暮れる日本に響き渡った歌、うなだれる日本人を一瞬で笑顔に変えた“東京ブギウギ”。その歌い手として爆発的な人気を得た〈ブギの女王〉こと笠置シヅ子をモデルにしたNHK連続テレビ小説『ブギウギ』がいよいよクライマックスにさしかかります。
評伝を書いた柏耕一さんによると、笠置シヅ子の後援会長は現職の東京大学総長。有名画家や作家や大女優も笠置のファンだった。笠置のファンはじつに幅広く、作家でいえば三島由紀夫、田村泰次郎、吉川英治。画家なら梅原龍三郎。女優では田中絹代、初代・水谷八重子、山田五十鈴など。なかでも異色なのは、いわゆる“夜の女”といわれる人たちだった。日劇で公演があれば彼女たちは大挙して押しかけ、花束を渡すなどして熱心に笠置を応援したという。
『放浪記』で有名な林芙美子も笠置シヅ子に魅了された一人で、笠置の自伝『歌う自画像』の中に「楽屋で見る笠置シヅ子は非常に人間的で、女らしく、美しい婦人だと思った。豊富な心の鍛錬がもたらしたものか、彼女は年を取らない型の女性と見えた。私は何も言いあったわけではないけれど、彼女の中に何かしら共感を呼ぶものを持っており、私の心をゆさぶった」と寄稿を書き残しています。
さて、「人生は暇つぶし」という言葉は、今ではいろいろなところで使われていますが、最初にこの言葉を使ったのは、イラストレーターのみうらじゅんさんであると言われています。私はドラマ『ブギウギ』を見るとき、なぜかこの言葉が浮かんできます。そして、この言葉を聞いただけで生きることが楽に思えるような気持ちにさせてくれます。生きることは死ぬということ、人が生きる真意を表し、捉え方により楽観的にも悲観的にも受け取れる名言です。
生きるということに悩みはつきものです。悩むということは、真剣に生きているということなのです。1度きりの人生、後悔せず楽しく暇つぶしするには過去や未来にとらわれないことです。過ぎてしまった失敗を後悔したところで時間は戻りません。例えば、職場で感情に任せて人を叱責してしまった、同僚に本意でもないことを嫌がらせのように言ってしまったなど、冷静に考えると自己嫌悪に陥ったりしてしまうことも人生ではよくあります。
人に優しくすると、感謝されます。感謝されると、無条件にうれしくなります。人間関係は、ある時は煩わしいと思ってしまうこともあります。生きるということは、人との関わりが永遠に続くことなのです。それならば、人に不快な態度で接して生きるよりも、優しく接して生きることの方がはるかに良い人生で意味のある「暇つぶし」となります。
「人生は壮大な暇つぶしみたいなもの。楽しくやりなさい」。この言葉が、笠置シズ子の生き方に重なって見えるのは私だけじゃないでしょう。
人生ちょっときついなと思っているなら、
「人生は暇つぶし」そして「仕事は最高の暇つぶし」と考えてみてください。
ちょっとだけ人生が楽になるかもしれません。
さあ、「人生ブギウギ!」でいこう!
病院長 髙尾 尊身