スペシャリストインタビュー「種子島初の診療看護師として移住して」

種子島は診療看護師が活かされる地、人としても大きく成長できる理想の地だと感じています。

 

診療看護師(NP:ナース・プラクティショナー)とは医師サイドにたった診療を一定の制限で行える看護師のこと。アメリカで始まり50年以上の歴史がありますが、日本では2015年10月から施行された新しい資格です。全国に664人(2023年1月時点)と認定者数はまだ多くありませんが、2022年に竹之内卓さんが当センター初の診療看護師として着任されました。医療資源が乏しく、超急性期から慢性期、在宅まで横断的に関わる離島医療にとって「治療」と「看護」の両面から活躍できる診療看護師の存在は大きな力となります。移住2年目の診療看護師、竹之内卓さんに種子島での診療看護師の役割、やりがいや魅力について話を伺いました。

 

 

― 診療看護師の資格を取得した理由を教えてください。

鹿児島大学病院で消化器外科病棟、ICU、救命救急センターを歴任するうちに、看護師の役割拡大に興味を持ちました。看護師特定行為研修を受講し、特定行為研修センターの指導者として様々な医療現場を経験する中で、患者様を身体的側面だけでなく、精神的・社会的側面からも包括的に捉え、より科学的に、適切に、タイムリーに、倫理的に考察する思考過程を身に着ける必要性を感じ、診療看護師を目指そうと決めました。

 

― 特定看護師と診療看護師にはどんな違いがあるのですか。

特定看護師の場合は、医療機関や大学院などで、特定行為(38行為あり)の研修を修了することで、医師の指示範囲内であれば手順書どおりに対応できるようになります。一方、診療看護師は、大学院修士課程での医学教育を修了する必要があり、医師や多職種と連携・協働し、倫理的かつ科学的根拠に基づき一定レベルの診療ができるようになります。

 

― どのようなことができるようになるのでしょうか。

例えば手術助手や腹腔穿刺など、より広い範囲の医療行為を行えるなど、医師に近い働きを担います。医師が不在であってもタイムリーな処置ができ、シームレスなケアを提供できるのは、診療看護師の大きな魅力です。

 

― 診療看護師としての最初の勤務地に種子島を選んだのはなぜですか?

看護師特定行為を学ぶ中で、離島医療では看護師がより自立して対応していく必要があると強く思うようになりました。実は、学生の頃から離島医療の実習や研修活動に多く参加し、離島の風土やそこに住む方々の優しさに触れるうちに、いつか離島で働きたいと思っていたことも大きな理由です。

 

大学院卒業後の勤務先として様々な離島・僻地の医療現場からお誘いのお声をいただきましたが、種子島を選んだのは、超急性期から慢性期、在宅までより総合的な医療を提供している当センターなら、これまで学んだことを役立てられる機会が多く、診療看護師としての役割を果たせる最適の場であると感じたからです。

 

― 当センターで働くにあたって何かサポートはありましたか? 移住に不安はありませんでしたか?

コロナ禍が始まった頃にちょうど大学院に入学し、資格取得のために病院でアルバイトをしながら学校に通う間、奨学金などの金銭的援助だけでなく精神的にも支えていただきました。

 

種子島へは家族で移住したのですが、初めての離島生活で住居探しに難渋していたところ、こちらの希望にぴったりの住居を見つけていただいて助かりました。電気や水道といったインフラや生活環境についても丁寧に教えていただき、来島してすぐに家族一緒に生活を始められました。

 

 

 

― 現在、病院ではどのような仕事をされているのですか。

修得した知識や技術を生かし、救急外来や入院病棟でタイムリーかつ医学的根拠に基づく適切な検査や処置を行っています。最近は看護スタッフから仕事のことなどさまざまな相談が増えてきて、少しずつですが診療看護師として貢献できているのではないかと感じています。

 

― 院外での活動も増えているようですね。

これまでの学びや経験を活かし、看護系の専門学校や大学を訪問する求人活動や大きな会場での合同就職説明会に参加するなど、西之表市での医療の担い手を増やすための活動を行っています。また、西之表市の看護専門学校の分校を設置する活動にも積極的に参加し、種子島の方が種子島で看護師になれる体制を作り上げたいと考えています。こういった求人活動の中では、市役所の方々をはじめ多くの地域で働く方々と深くお話しをする機会も多く学びの多い知見の広がる経験をさせてもらっています。

 

― 種子島での診療看護師としてのやりがいはどんなところですか。

私が着任して最初に感じたことは、種子島の看護師の技術のレベルや判断力は非常に高いということです。地理的なハンデがありながらもそれを素直に受け止め、様々な有事を少ない人数でありながらも立ち向かい乗り越える力は、本土の大病院では鍛えられない能力であると思います。

 

ただその中でも「これでいいのかな」「これが正しいことをしているのか」と迷う点が多くあると聞きます。そこで私は科学的根拠や倫理的観念に基づいた助言や技術の提供を行い、スタッフが安心して医療・ケアを提供できるように導く存在になることが使命だと感じております。自分の持ちうる知識や技術を、離島で働く看護師に継続的に提供することで、島全体の医療の質を上げることにつなげられると考えています。

 

― 移住されて1年が過ぎましたが、島での生活は慣れましたか?

素晴らしい自然と温暖な風土、親切な方々に囲まれていると感じています。慣れない私たち家族を気遣い、いろんな方々が気さくに話しかけてくださったので、島の生活にすぐに溶け込むことができました。上司や同僚、近所の方々からブロッコリーやスナップえんどうなどの野菜をいただくことも多く、親戚のように接していただいています。

種子島にはサーフィンやロケット打ち上げ、ウミガメの産卵などまだまだ未経験の楽しみが多いので、2年目の今年は家族でどんどんチャレンジしていきたいと思っています。

 

― 仕事では何か変化がありましたか?

今年度はこれまでの副看護部長としての業務に加え、急性期外科病棟の副看護師長も拝命致しました。ここまでは対外的な仕事が多く、病棟システムをしっかり把握していませんでしたが、今後は病棟のスタッフと力を合わせ入院管理での安全・安心・安楽な質の高い看護の提供も併せて目指していきます。

 

― 離島医療や診療看護師に興味を持っている方々へメッセージをお願いします。

正直なところ医学的な知識だけを考えると、本土の方が医療を学ぶ機会は多いと思います。しかし、特有の地域性や風土、自然豊かで住んでいる人々の優しさ、時に自然の激しさや厳しさを直接肌で感じられる種子島で暮らし、仕事をしたこの1年は、自分自身が一人の人間として成長したと強く感じています。

 

医療資源が限られる種子島では、診療看護師として活躍できる部分が多くあり、一人ではなかなかクリアできない問題も、当院のスタッフの力を借りれば必ずクリアでき、理想の働きができるのではないかと感じています。

 

離島医療に少しでも興味があるなら、ぜひ体感してもらいたいと思います。当院で、種子島の地で私たちと一緒に働きましょう!

 

― ありがとうございました。