認定理学療法士インタビュー「利用者さんの望みを叶えるために」

自ら練習して自分の力でできるようになる姿に感動します。

 

リハビリテーションを継続させ、効果を上げるためには、本人が主体的に動く意識が重要です。特に訪問リハビリテーションにおいては、理学療法士が関わる時間が制限されるだけに、本人だけでなく周りの人々を巻き込み、サービスや制度といった地域資源を最大限活用することが成功のカギとなります。その手法はその方の性格、環境、地域によっても異なり、それを探究するのが地域理学療法学です。地域資源の少ない種子島で、地域理学療法認定理学療法士として活動する内村寿夫さんに、資格を取得した理由や取り組みについてうかがいました。

 

 

—— 地域理学療法とはどのようなものですか。

地域理学療法学は、「動作や活動への多面的な働きかけにより人々が地域でのくらしを主体的につくりあげられるよう探究する学問」のことです。具体的に言うと地域理学療法認定理学療法士は、高齢者、障がい者、障がい児を含むすべての地域住民が住み慣れた地域で生活できるように保健や医療の立場から生活支援を行います

 

—— 2年前に資格を取得されていますが、なにかきっかけがあったのでしょうか。

認定理学療法士は、専門性をさらに高め、質の高い理学療法を提供する能力が必要です。まず理学療法士になって最低5年の研修を受けて登録理学療法士となり、さらに必要なカリキュラムを受講し認定試験に合格してようやくなれます。取得が厳しい資格ですが、いつかは取りたい自分にとっての大きな目標でした。入職後4年間、当院で外来や入院患者さんのリハビリテーション(以下リハビリ)を担当し、4年前に訪問リハビリテーション事業所に配属されて訪問リハビリテーション(以下訪問リハ)を経験する中で、利用者さんの望みを叶えるには地域理学療法の知識が絶対に必要であることを実感したんです。それがこの資格を目指す大きな動機になりました。

 

—— どんなところに必要性を感じたのですか。

病院に勤務していた時は、一人の患者さんに毎日1~2時間リハビリを提供することができたので、技術を駆使して患者さんを良くし、お家に帰すというイメージがありました。ところが訪問リハでは、利用者さんに週に1~2回わずか40分しか関わることができないため、思うような結果が出ずに行き詰っていたところがありました。

 

利用者さんの望みは、「少しでも自分の事を自分でできるようになりたい」「少しでも家事がしたい」「墓参りに行きたい」という生活に直結したものがほとんどです。それには、利用者さんの意識や生活を変える必要があります。資格を通して学びたかったのは、新しい手技ではなく、生活を作り上げていくために、どういう手段を使えば可能になるかという考え方です。

 

アプローチの仕方も変わります。筋力トレーニングだけじゃなく、動作や生活習慣を変えるための指導や環境調整を行っていきます。私たちが直接介入できる時間は限られるので、訪問リハ以外の時間にどのような活動をするか、利用者さんを取り巻く周りの家族やサービス担当者を巻き込み、利用者さんが主体的に生活を作り上げてくれるように介入するのが、地域理学療法認定理学療法士としての役割です。

 

—— リハビリへの意識は変わりましたか。

種子島には、家族が遠い島外にいてなかなか帰ってこられず、一人で生活しなくてはいけない方がたくさんいらっしゃいます。見守り、あるいは少し手伝うことで、自分で買い物に行ったり、散歩したり、できることが増えるケースがありますが、公共交通機関や送迎サービスが少ない、お店が近くにないなどの理由で活動を諦めている方が多いように感じます。

なるべく利用者さんが自分でできることを増やして、役割を持って生活できるように仕掛けることが、訪問リハで効果を上げる有効な方法です。できることを諦めないために地域の特性、環境や福祉サービスなどの地域資源を把握し、たくさんの選択肢を用意したうえで、家族やケアマネジャーさん、ヘルパーさん、地域のご近所さん、さらには行政まで巻き込み、大きな枠組みで連携しながらリハビリを提供していくという意識が身につきました。

 

—— そうすることで何か変化がありましたか。

いろんな人が関わることでご本人の意識がアップし、いろんな方と情報や問題を共有して家族も一緒に考えてもらうことで、同じ方向を向いてリハビリをする体制がとりやすくなりました。また、道具を使ったり、環境を整えたり、あらゆる手段を使うことで活動が増えればもっと良くなるということがわかってきました。そうした積み重ねでご本人が弱るのも防げますし、気持ちも前向きになっていく、そういう方が何人もいらっしゃいます。

 

—— 印象に残っている出来事を教えてください。

なかでも印象に残っているのが、審判の資格を持っているほど大のゲートボール好きの90歳の男性です。種子島はゲートボールが盛んで、その方は死んでもいいからゲートボールに行きたいというご希望でした。心臓がとても悪く、外出も難しい状況でしたが、座れるタイプの歩行器を用意して何回も休憩を挟みながら無理をせずに歩く練習を始めました。普段は自分で管理しながら百歩歩いては休むというリハビリをしてもらい、状況を報告してもらいながら続けました。結果、現地まで行って仲間としゃべり、指導もできるようになり、最終的には少しですがゲートボールができ、笑顔で喜び合ったことは、今も忘れられません。

 

—— 資格を取ってよかったと思いますか。

この資格を持つことで何か特別なことができるようになるわけではありませんが、学び、より深く知ることでいろんな問題が見えてきました。各々の地域についてしっかり知ることが地域理学療法ですが、種子島や自分が住んでいるところをより深く知ることが大事であると気づかされました。この学問は訪問リハビリをするうえで重要なものだと思っています。

 

 

—— 内村さんは鹿屋市のご出身で、当院に入職して9年とのことですが、なぜ種子島で働こうと思ったのですか。

学校の実習で脳梗塞、骨折、廃用症候群とか、動けなくなったことで筋力が低下してさらに動けなくなる負のスパイラルに陥っていく高齢者をたくさん見て、こういう方たちの力になりたいと思うようになりました。リハビリによって回復していく姿を目の当たりにして感動を覚えることが増え、漠然としていた理学療法士になることへの決意が固まってきた頃、研修で2カ月間、当院にお世話になり、素敵な先輩たちと出会ったんです。

 

なんていうのか、ここでは患者さんも楽しそうだし、先輩たちも心から楽しんでやっている感じがあって。先輩方の患者さんたちとの関わり方を見ていくうちに、自分もこういう理学療法士になりたい、この人たちと一緒に働きたいと強く思って、最初からここで働こうと決めていました。

 

—— どういうところに惹かれたんですか。

利用者さんの希望を尊重し、なるべく叶えてあげたいという思いがあり、そのためには手段を問わず、できることを探して実践するところです。それには知識とか技術が必要で、なければ身につけ、どうにかできないか方法を模索するという姿勢は、僕も先輩方と働くうちに自然と身についたように思います。

 

僕らに対しても、きちんと考えたうえでの行動ならどんな方法でも尊重してくれることが多く、適度に修正してくれた印象があります。入職した頃は、自分が全然気づかなかった視点をアドバイスしてくれたり、はっとさせられることが本当によくありました。

 

—— 資格を取ったのは自然の流れなんですね。でも仕事と両立させるのは大変だったのでは。

資格の勉強の他に研修の履修、症例レポート提出が必須で、時間も費用もかかります。当院は資格取得に積極的で、協力してくれますし、費用も支援してくれるので恵まれています。

 

挑戦したのは入職して6年目、ちょうど新型コロナが流行し始めた頃で、時間に余裕ができたり、オンラインで受講できたりと、取得しやすい環境ができたことは追い風となりました。先輩方とも情報共有させてもらい最後の認定試験になんとか合格することができ、ほっとしました。

 

—— 見事、一発合格でしたね。

今まで興味がないことを勉強してもダメだったという経験があって学生の時は全く頑張れなかったんです。実は大学を中退して、完全に挫折して自信が持てなくなっていた時期がありました。そんな時に両親から勧められて理学療法士を目指したんですが、理学療法士になっても技術に自信が持てず、楽しそうに仕事をする先輩たちと見えている景色が全然違うと感じて必死にもがいていたんです。

 

ところが訪問リハビリテーション事業所に異動になり、先輩に頼れる環境ではなくなったこともあり、自分で模索する日々が続きました。ある時、リハビリが上手くいかずに行き詰ったことがあって、それを解決するために探した答えが地域理学療法学の資格を取ることでした。そして勉強すればするほど足りないものが見えてきて、すっかりこの学問にはまってしまった。そうじゃなければ多分挫折していたと思うくらい、勉強はしんどかったです。でも、興味があって必要であると認識したことであれば、どんなに大変でもやり遂げられるというのは、資格を取って自信になりました。

 

—— 楽しそうに仕事をされているし、挫折を味わったようにも見えませんね。今は仕事が好きですか。

そうですね、僕は普段はしゃべらないし、家からも全然出ないんですが、仕事の時は人と会って話しをするのが全く苦じゃないので、自分に合っているんだと思います。資格を取ったからといって施術の技術は変わっていないと思うんですが、知識を得ていろいろな手を打てるようになったことで利用者さんや家族の意識が変わり始めました。おかげでいいサイクルが作れるようになり、リハビリの効果が出てきたという手ごたえを感じています。

 

利用者さんから「一人でできるようになった」という報告やお礼の言葉や喜びの声を、たくさんもらうようになりました。僕が手助けしたというよりも「本人が意識を変えて練習して、自分の力でできるようになった」ことに感動します。これまで先輩方のように患者さんを良くするために突っ走っていくという感じになれなかったんですが、今は同じ風景を見ることができているような気がします。

 

—— 理学療法士という仕事は内村さんの天職ですね。これからの夢や目標を教えてください。

訪問リハは、限られた地域資源のなかで、これまでの療法士としての経験が試され、チャレンジ精神が求められ、自ら成長させられる場所だと感じています。やりたいことや将来の夢を形にするなら、ただ漠然と勉強をするよりも、資格にチャレンジした方がいいし、何よりも自分の意識が変わることは大きなメリットだと思います。

 

これからはもっと介護保険などの制度についても勉強し、必要ならば資格にチャレンジし、高齢者に限らず小児の分野にもいろんな手段で関われるようにしていきたいと思っています。

 

—— これからも期待しています。ありがとうございました。