自分を成長させ、笑顔をもらえるこの仕事は生きがいになっています。
現在の医療現場において、慢性閉塞性肺疾患、肺炎、間質性肺炎、人工呼吸器管理となった患者様の主治医からリハビリテーションの処方が増加してきています。そんな中、理学療法士の大坪正拓さんは2年前、当院で初めての呼吸認定理学療法士となりました。大坪さんに呼吸理学療法の重要性や取り組み、種子島で働く理由についてうかがいました。
—— 呼吸認定理学療法士の資格を取った理由を教えてください。
入職4年目だったと思いますが、この分野にめりこむきっかけとなったのが、人工呼吸器装着状態でリハビリテーション(以下リハビリ)の依頼があった患者様です。
初めて人工呼吸器管理された患者様であったためリハビリを行うのも大変な状況で、なかなか思ったような効果が出ず試行錯誤の繰り返しでした。途中、転院されたこともありましたが、医師・看護師の協力のもと互いに諦めず懸命に取り組んだことで最終的に人工呼吸器を離脱して歩いて帰れるようになりました。この経験は理学療法士としてのやりがいや自信となり、呼吸器系の分野をもっと勉強しようと思うきっかけになりました。
—— もともと興味があったわけではなかった?
実は、学生の時は呼吸器系には興味はなく、どちらかというと勉強も好きじゃありませんでした。当院で働くうちに最終的に呼吸器不全や心不全にかかって亡くなる方が多いのではないかと気付き、目の前で苦しんでいる患者さんを何とかしたいと思うようになりました。
興味がわいて勉強をするようになったのは、循環器・呼吸器の大切さを認識するようになってからで、面白みに気づいたのは最近の話です。これまで同じ教科書を何回も読み返しながら呼吸理学療法を提供していたのですが、理解力が追い付かなかったこともあり勉強は苦行でしかありませんでした(笑)。
—— 呼吸器系はリハビリとどんな関係があるのですか。呼吸認定理学療法士の役割について教えてください。
息切れや呼吸困難があると日常生活や活動量も制限されてしまい、どんなにリハビリをしても呼吸状態をきちんと把握しないと効果が出にくく、患者さんの病状を悪化させてしまいかねません。しかし、循環・呼吸状態の把握を行うことで安全にリハビリができるだけでなく、呼吸が楽になるので日常生活動作(ADL)がしやすくなり、自身でできることが増え生活の質が上がると考えています。
基本的には、呼吸器疾患により呼吸機能の低下により日常生活に支障が出ている方に呼吸法、排痰法、リラクゼーションや運動療法を行い、呼吸困難感の緩和、運動能力の向上を図り日常生活の活動性を高めることが目的となっています。
—— 当院では大坪さんが初めて資格を取得されていますが、必要性を感じて取ろうと?
当院のリハビリには、整形外科や脳外科の分野に特化した先輩が揃っているのですが、呼吸器系の分野に特化した理学療法士がいなかったんです。リハビリにおける呼吸器疾患(慢性閉塞性肺疾患)の患者様は近年増加傾向にあり医師からの依頼が増加していました。当時は自分でしか勉強をするしかなかったし、この分野に詳しくなれば少しでも尊敬する先輩方に追いつけるかなという気持ちもありました。
資格取得については、上司の早川部長から「これだけ勉強をしているんだから資格を取りなさい」と言われたのがきっかけです。自分ができることを一つ一つ必死にやっているだけなので、多分資格がなくてもやることは変わらないと思います。資格はずっと勉強をしてきたことの証、得意分野が呼吸理学療法であるという証明書みたいなものです。
—— どのように勉強していったのですか。
呼吸理学療法の勉強を始めたころは、教科書を見直したり講習会に出たりして知識を増やしていきました。当初はうまくいかないことばかりでしたが、勉強会に行き始めたことでいろんな理学療法士の考え方を学ぶことができ、世界が広がっていき、呼吸器の分野に関しては一人で悩むことはなくなりました。また、新型コロナ感染症の流行によってオンラインセミナーというものが出てきたので、ネットを通して自分が悩んでいる部分に近い内容を多く学ぶ機会が一気に増えましたね。
—— 資格取得に関して仕事との両立は厳しくなかったですか。
これまでずっと興味を持って勉強していた分野だったので、「やってみるか」という気持ちで挑戦しました。資格試験を受けるには、日本理学療法士協会が定める学会や講習会に参加して規定のポイントを取得する必要があります。学会や講習会には出張なども含め参加する機会がありましたのでポイントについては厳しくなかったと思います。
また、自分で呼吸理学療法の研修会に参加しながらそれを現場に生かすことがルーティンとなっていたので、試験勉強では研修会内容を復習し、自分が間違った知識をつけていないかを再確認していました。ただ、資格を取ることが決まってから4か月で10人分の症例報告を提出するための準備と報告書作成が資格取得において一番大変でした。
—— そこまで頑張る理由は何ですか。
専門学校時代、ある先生から言われた「結果の出せる理学療法士になりなさい。なんちゃって理学療法士にだけはなるな。患者さんからは診療報酬というお金をもらうのだから。」という言葉がずっと心にありました。
だんだん呼吸器系の重要性と難しさがわかってきて悩むことと考えることの面白さがわかってきたんだと思いますが、きっと「結果を出すために自分ができる最大限のことをやるしかない」という気持ちが、頑張れる理由だと思います。
—— 呼吸認定理学療法士がいることで、患者様もスタッフも心強いと思います。資格を取ったことで何か変わりましたか。
より安全に呼吸理学療法を提供できるよう悩み考えることが多くなりました。呼吸器疾患の病期や治療の段階に合わせてより最善と判断したリハビリを提供できているのではないかと思います。周りから見れば何でも知っていると思われているみたいですが、そんなことはなく、わからないことがあればすぐに調べますし、立場もやることも何も変わりません。
スタッフに対しては、知りたいと質問してくる場合には丁寧に伝えますが、私から知識を伝えるということはしません。興味がなく必要性を感じていない段階では、何を教えても身につかないと考えているので。実際、自分がそうでしたから。
—— 自主性を尊重するのが当院のリハビリの特徴でもありますね。大坪さんはなぜ理学療法士になられたんですか。
小学生の時、父親が仕事中に怪我をして入院したことがありました。全く動けなかった父がリハビリを受けて動けるようになった姿を目の当たりにして、「ああ、すごいな」って思ったのがきっかけです。その後、高校の時に職場体験で病院に行かせてもらって、実際に理学療法士を目指すようになりました。
ところが、実際に働いてみると楽じゃないし、上手くいかないし半端じゃないほど厳しい仕事でした。やりがいもすごくあるけど、悩むことも落ち込むことも多いです。
—— みなさん、いつも笑顔で仕事をされているので意外ですね。
現在のリハビリは発症直後よりリハビリを行うことがほとんどです。循環器系や呼吸器系に疾患のある患者さんって、すごくしんどくて苦しいのに運動をさせなくてはいけません。ただでさえ苦しくてつらいのに、楽しくなかったら続けられないと思うので楽しい雰囲気を作るようにしています。すると、それが本当になっていくんです。
しんどいなりに笑顔になるし、苦しいって言いながら笑ったりする。動けるようになってきたらお互いに嬉しいし、うまく説明できないですが、患者様やスタッフが楽しそうにしているとなぜか自分も楽しくなってしまう。
—— 理学療法士を続ける理由は何ですか?
同じ病名でも人によって適した理学療法は違います。今もですけど、不安な気持ちを持ちながら仕事をしています。思ったような結果が出ないときはすごく悩みますし、それは自分の責任なのでしっかり調べてトライして、違ったらまた調べるという繰り返しです。
心が折れそうになることもありますが、少しでも患者さんに変化があったり、できることが増えたりすると嬉しくて。語弊があるかももしれないけど、どの患者様も同じじゃないのが面白いし、自分も成長し、笑顔をもらえるこの仕事は生きがいになっています。
自分がやりたい理学療法ができるようになるまでには乗り越えなくてはいけない壁がいくつもあるので、思っていたのと違うと途中でやめてしまう人もたくさんいると聞いています。それでも自分自身は理学療法士になって良かったと思っています。
—— そもそもなぜ種子島に来ようと?
私は福岡の専門学校で学んだのですが、その頃からダイビングにはまっていて種子島のことも知っていました。授業ではよく離島で働く先輩がいると話を聞いていて、種子島に先輩がいたこともあり種子島医療センターの施設見学をさせてもらったのがきっかけです。
その日はよく晴れていて驚くほど海がきれいで。ダイビングをしたい一心もあり、ここで働こうって決めました。当時は離島医療に興味があったというより、種子島に行けばダイビングができて、仕事もできるというイメージでした(笑)。
—— 当院に入職して今年で13年目とうかがっています。種子島での暮らしはどうですか?
コロナ禍になるまでは、ずっとダイビング三昧でした(笑)。遊ぶところもたくさんあって、釣りに行ったり、写真を撮りに行ったり、友人と飲みに行ったり、仕事が忙しくても楽しみがあるっていうのがモチベーションになっています。
希望すれば島外での研修や勉強会にも行かせてもらえますし、そのついでに実家に帰ったりなどもでき、種子島には私のやりたいことがほとんどできる環境があって楽しいし、結局種子島が好きなんです。あっという間に時間が経ってしまいました。
—— 大坪さんのように全国から種子島に来ていただいて、仕事もプライベートも楽しんで人生を謳歌していただきたいですね。最後に資格取得を目指す方へメッセージをお願いします。
資格とは関係なく学会発表をしたり論文を書いたり、勉強している人が身近にいるので、資格取得者だけが知識や技術が高いというわけではありません。でも、資格を目指して勉強したことは無駄にならないし、その過程がすごく自分のためになるので、チャレンジすることはいいことだと思います。
知識の上書きにもなるので、私も何か資格試験にチャレンジしようと思っています。
—— 貴重なお話をありがとうございました。