11月朝礼講話 —コロナ禍を俯瞰的に考えよう—

 

菅総理の答弁で使われた「総合的、俯瞰的」の言葉が話題になっています。難しい漢字を用いたなじみの薄い言葉なので、「俯瞰」について検索してみました。

 

「俯瞰」には二つの意味があるそうです。一つは「高い場所から見下ろすこと」で、山頂など高い所から下界を見下ろす時に「俯瞰する」という表現を使うそうです。二つ目の意味は「広い視野で客観的に見ること」で、ものごとの全体像を把握し、思い込みを捨て、広い視野でものを見ることだそうです。つまり「俯瞰的に考える」の意味は、「ものごとを広い視野で捉え、客観的な視点で考える」となります。

 

そこで、今私たちが置かれている「コロナ禍」の日常を俯瞰的に考えてみましょう。

今年の初頭から始まった新型コロナウイルス感染症は、世界を変えるパンデミックとなり、今なお感染が続いています。歴史的にも世界を変えるパンデミック(天然痘・ペスト・スペイン風邪など)があったことを勉強し直す機会にもなりました。パンデミックは時代や政治を大きく変えることがあります。現在進行中のアメリカ大統領選挙にも大きな影響を与え、選挙結果は予断を許さない状況を招く可能性もあります。種子島もアメリカも世界中どの場所であってもコロナ禍から逃れることは出来ないのです。

 

パンデミックの歴史から学ぶ点として、感染の病原体(細菌、ウイルスなど)、その時代の医療環境、移動手段の発達、感染拡大の範囲、致死率などに違いがあるのは当然だと思いますが、興味深いのは、どのパンデミックも数年~数十年で収束していることです。永遠に続くことは無いのです。現在の医療環境を考えれば「コロナ禍」は数年以内に終息するのではないかと推測されています。

 

ヒト細胞でしか生きることが出来ないコロナウイルスは、やがて免疫機構で排除されると考えられていますが、種子島に住む我々が新型コロナに対する免疫を獲得しているかは今のところ分かりません(高感度の抗体検査が必要です)。しかし、PCR検査が普及することで新型コロナウイルスに暴露されたか否かは検出可能となりました。

 

これまでに日本では、無症状または軽症陽性者が80%を超え、重症者は高齢者や基礎疾患を持つ人に偏っていること、PCR検査で陽性となった人は症状発現の有無にかかわらず免疫を獲得する(獲得免疫が有効な期間には諸説あります)ことも分かってきました。11月1日現在、種子島での陽性者は確認されていません。しかし、年末年始にかけて多くの帰省者や観光客が訪れることを考えれば、今後PCR検査で陽性者が出ることを想定していなければなりません。

 

一方で、「外出の自粛」は特にデイサービスが必要な高齢者には不安を与え、引きこもりによる身体的負担(基礎疾患の増悪など)を増加させる懸念があります。これはウイルス感染リスクという視点からのみ考えられた提唱で、人が生きていくための生活様式ではありません。新しい生活様式を比較的忠実に守っている私たち医療従事者から陽性者が出る可能性もあります。

 

大切なことは陽性者が出た時に私たちがパニックに陥らないことです。そして、誹謗中傷は絶対に避けなければなりません。誹謗中傷がもたらす被害はウイルスがもたらす身体的被害と同じ、あるいはそれ以上に甚大です。種子島に住むすべての人々の尊厳を守りましょう。

 

歴史的なパンデミックが過去そうであったように、コロナ禍がやがて終息することを願ってやみません。

 

 

病院長 髙尾 尊身