9月朝礼講話   最も奇妙な夏 ―光と影の中でー

 

オリンピックそしてパラリンピックでの日本人選手の躍動とメダル獲得、日本全土に大雨をもたらした線状降水帯による各地の洪水と土石流の悲惨な映像、影が薄かった全国高校野球選手権大会、新型コロナ感染症の爆発的な感染拡大(第5波)を伝える連日の報道。なぜか国のリーダーは伏し目がち、アナウンサーが活き活きと見える・・・錯覚(?)。

 

新型コロナ感染症に対する非常事態宣言が西之表市に発出されたことは歴史的と言っても過言ではないだろう。種子島で新型コロナ陽性者の数があっという間に60名を越えたのはお盆の頃だった。自宅待機者が25名、入院12名。人口比率でみると東京並みの感染者数だ。特殊外来は2週間にわたって休診となり、外来の5割以上が電話診療となった。まさに本院創立以来の非常事態だ。

 

診療行為にもコロナ禍によって幾つかの変化がもたらされた。発熱外来は院外に設けられ、問診では島外旅行、飲み会、ワクチン接種の有無、患者の表情を診る視診より、マスク着用確認の視診が普通となってしまった。この暑い夏の日々の診療で大切な医療行為の一部が変容したのだ。患者にとって元気の素である笑顔の接遇は大切だが、マスクをした接遇は難しく工夫が必要となった。

 

一方、コロナ感染対策チームの懸命な対応が功を奏して院内感染が起こっていないのは不幸中の幸いである。今夏、私たちは貴重な経験をしていることを忘れてはいけない。生活様式は一変し、マスクは必需品となり、人々の絆さえも壊されていく。パンデミックは人類の医療文明を変換し、時に破壊する。それでも、いやだからこそ、我々医療者は立ち向かわなければならない。

 

すべての世代が初体験の日本で最も奇妙な夏。さて、私たちが種子島ですべきこと、私たちの役割は何だろう。9月1日は防災の日。そう、今こそ、「災害に強い医療」への転換を始めよう。

 

病院長 髙尾 尊身