11月講話 mRNAとアト秒、Zの衝撃

 

まだ、覚えているだろうか? 今年のノーベル医学生理学賞は、mRNAを利用してCovid-19ワクチンを開発した2氏に贈られたことを。人類を感染症から救い、mRNA創薬の扉を開いた功績は大きく、mRNA創薬は益々活発になり、近い将来、癌および難病に対する新規の薬が開発される可能性がある。

 

一方、物理学賞は、アト秒というごく一瞬だけ光るレーザーを使って物質中の電子の動きを捉える手法を開発した3氏が受賞した。アトとは聞き慣れない言葉だが、「100京分の1」という意味で、1アト秒は、1秒を10の18乗で割った長さ、と言われても理解困難な世界の話なのだが・・。物理学賞に相応しい点は、電子の動きを捉えることで、高性能な半導体や量子コンピュータの開発につながり、癌などに関連する血液中の分子を見つけ出す新規の診断法開発に繋がる、らしい・・。

 

が、何と言っても、我々のビッグニュースは、藤井聡太棋士が若干21歳で将棋界すべてのタイトルを制覇し八冠となったことだ。彼は90年代半ば~2000年代初頭に生まれたZ世代の代表とも言える。子供の頃からパソコンやスマホのあるネット環境の中で育った世代。少なくとも我々が育った環境とは著しく異なる環境で育ってきた。だとすれば、これからの医療界でもZ世代の活躍が期待されるのではないか。

 

DX医療を駆使できる能力を生まれながら身につけている、こんな頼もしいことはない。mRNAやアト秒の世界は私たちの医療と繋がり、新しい医療を生み出し、これまでの難病に対する治療を一変する未来がある。その新規医療を使いこなす若者が必要なのだ。Z世代が活躍する近未来は、都会も田舎も離島も同じ医療の恩恵を受けることになるだろう。

 

100年先の未来から振り返ったとき、コロナ禍の3年間は新しい科学の始まり、そしてZ世代の台頭を導いた衝撃の時代と記憶されるかもしれない。

 

病院長 髙尾 尊身