6月講話 希望と危険に満ちた高齢者たち

 

コロナ禍では住民を守るため懸命に戦ってきた私たち。さてマスクから解放された今、マスク着脱をいつ、どのようにすれば良いのか? 戸惑う心に自分ながら可笑しさを感じる。3年間が長かったのか? 短かったのか? 何とも不思議な時間を過ごしたものだ。マスク生活が幻だったかのように、コロナ禍での負の記憶が一つひとつ抜け落ちていく日常が戻ってきた。

 

さて、本院での救急患者の多くは高齢者である。脳神経外科で脳卒中、外科はイレウス、穿孔など、整形外科では骨折が代表である。一昔前では、手術に踏み切れなかった80歳以上の高齢者でも手術が可能となり積極的な治療が推進されている。医療技術の進歩は離島にまで及んでいるのである。また、高齢者をケアする技術も進んでいる。リハビリテーションは先端医療に必要不可欠となってきた。幸い本院では高齢者に質の高いリハビリが実践されている。

 

一方、高齢者医療の進歩は素晴らしいのだが、必ずしも希望だけがあるのではない。そこには危うい医療が隣り合わせで大きな口を開けている。近年問題となっている「処方カスケード」である。

 

「処方カスケード」とは、服用している薬による有害事象が新たな病状として誤認され、それに対して新たな処方が生まれる処方の連鎖のことで、ポリファーマシーと共に高齢者にとって大きな危険となっているこれは一つの医療機関、一人の医師の処方によっても生じる。処方カスケードが疑われる場合には、服薬情報提供や疑義照会などを通し、原因薬剤の減量や中止を提案し、負の連鎖を断ち切ることが重要である。

 

・漫然とした処方薬の投与を止めよう

・服薬アドヒアランスに注意し服用状況の把握に努めよう

・医師と薬剤師の連携による処方医へのフィードバックや処方提案をしよう

 

私たちは、高齢者を処方カスケードから守ろう!

 

病院長 髙尾 尊身