2月講話 南海トラフ巨大地震への備えは出来ているか?

 

令和6年元旦に能登半島はM7地震による甚大な被害に見舞われた。翌日には羽田空港で日航機と海保機の衝突事故が起こり、令和6年の始まりは暗雲が立ちこめた。あれから1ヶ月が過ぎようとしているが、被災地の復興は遅々として進んでいない。神戸大震災、東日本大震災の教訓は活かされているのだろうか? 災害医療は過酷な状況の中、できるだけ多くの「救える命を救う」ことが最も大きな役割のはずなのだが・・・。

 

近未来の種子島で予想される最大の自然災害は、南海トラフ巨大地震による巨大津波が高い確率で予測されている。私たちは災害医療の視点で、南海トラフ巨大地震へ備えなければならない。多くの住民は高い場所へ避難しなければならないが、高齢者が多い種子島では行政による避難誘導とその準備が大切であることは言うまでもない。巨大津波による甚大な被害の後には高齢者をはじめとする基礎疾患をもつ住民の災害関連死を防ぐ医療提供が重要となる。その際に問題となるのは、水、食料、電気である。

 

能登半島地震の被害では、長引く停電が我が国の電力供給のもろさを露呈した。医療には電気が必要である。本院の非常電源では12時間以内しか供給できない。大災害が起きた場合、住民への医療確保のため、少なくとも3日間以上供給できる非常電源が必要である。その電源確保をどうするか。近年開発された高出力電源装置の医療への利用が考えられる。しかし、問題は費用が高価なことで、本院だけでは設置が難しく、行政との連携が必要である。

 

そこで西之表市の南海トラフ巨大地震に対する過去の取り組みを調べてみると、平成25年2月6日に市消防団、有識者や県や気象台など外部委員を含めた第1回津波避難対策検討会が開催されている。ところが以降10年以上、本検討会は開催されていない。巨大津波の場合、復旧までの食料や水の確保は最も大切である。また、種子島は高齢者が多いため、災害関連死を防ぐ手立てが必要である。医療と行政との連携こそ、今最も優先度の高い課題ではないだろうか。

 

一方、災害看護とは、災害が発生した際に医療や看護の知識・技術を提供し、他の専門分野と協力・連携しながら行う看護活動である。都道府県看護協会に登録した災害支援ナースは、被災者の生命や健康におよぶ被害を最小限に抑えるため、災害救急医療・精神看護・感染症対策・保健指導など幅広い分野で活動する。

 

また、本院にも設置されているDMATは災害発生直後から救助活動などの役割を持ち、治療の優先度を決めるトリアージの知識と実戦が求められる。災害支援ナースと比べると短期間で集中的に行わなければならないため、より専門的な知識と技術を持って活動する。

 

種子島の災害医療の砦として、今、私たちは南海トラフ巨大地震への備えを地域と共有し、行政との連携で推進しなければならない。

病院長 髙尾 尊身