6月講話  ゴジラと北里柴三郎

私が最初に観た映画は7歳の時で、「ゴジラ」(1954年公開)だったと記憶している。実に70年ほど前である。その架空の恐竜ゴジラは今や世界的スターとなっている。知っている方も多いと思うが、オスカーを獲得した映画の主演(?)なのである。正確に言えば、アカデミー視覚効果賞で、全米での邦画実写作品として興収記録が歴代1位となった。タイトルは「ゴジラ −1.0」で、マイナス1の意味は、戦後ゼロ(無)になった日本をさらにマイナスに叩き落とすという意味だそうである。

 

早速、劇場へ足を運び「ゴジラ −1.0」を観た。ゴジラが現実にいるかのような視覚効果には子供の頃と同じ様に胸が躍り、ストーリーも十分楽しめた。戦後の日本の悲惨さ、ゴジラがその日本を襲うのを観て、米国人は気分を良くした(?)のも受賞に影響したかも知れない。ゴジラは日本生まれだが、ゴジラの放射線攻撃には米国の核実験も一役買っており、日本人同様に米国人のゴジラへの親近感も相当なものに違いない。

 

半世紀前の日本発アイデア恐竜「ゴジラ」は今、地球狭しと大暴れしている。

 

一方、医学の世界はどうだろう? 医学研究は右肩下がりと揶揄される昨今だが、来る7月から発行される新千円札に北里柴三郎博士の肖像が採用される。世界で初めての破傷風菌純粋培養、破傷風抗毒素の発見、ジフテリアと破傷風毒素に対する血清療法の開発、ペストの病原菌発見など、彼の細菌学への功績は素晴らしく、第1回ノーベル生理学・医学賞の最終候補に残ったのだが・・。

 

もし、彼が第1回ノーベル生理学・医学賞を受賞していれば、日本の医学界は世界を席巻していたかも知れない。当時、ドイツ医学界が圧倒的な発言権を持っていたため、二次選考15名にさえ洩れたべーリングが、ジフテリア血清療法で意外にも単独で受賞した。この療法はもともと北里柴三郎が破傷風菌で開発した手法であり、ジフテリア血清療法の論文も共同執筆者だった。何ともしっくりこない話で、実に悔しいのだが、北里は落胆せず、それからも日本の医学に多大な貢献をした。「日本近代医学の父」と呼ばれる彼の功績は、確実に現在の予防医学に繋がっている。

 

コロナ禍明けのタイミングで新千円札の肖像画には北里柴三郎が最も相応しく、「新興感染症に備えよ!」と私たちを鼓舞し続ける。

 

 

病院長 髙尾 尊身