田上理事長の講話
令和6年2月

高齢者の方からときどき聞く言葉です。
「歳を取ればよかことはひとつもなか」
「もうあっちさな行こうごたい」
「なんも楽しかことはなか」
外来診察が終わって帰り際に、そんなことを言って帰られる方がいます。そんな方に私は何と言ってあげるか、何をしてあげられるか、とても悩みます。

あるおばあさんのお話です。
長いこと外来通院していた方で、だんだんと腎機能が低下してきました。80歳を過ぎてから、さらに悪化したため、そろそろ透析が必要な段階になってきました。
それ以前より、透析をしないといけなくなるという話はしていたのですが、当初は透析をすることに関して、とても消極的でした。もう年だからしなくてもよいとか、透析はきついからいやだとか、何で私がこんな目にあわないといけないのかなどと、現実を受け入れることが出来ない様子でした。
いよいよ透析導入しなければならないと判断し、家族も呼んで説明したとき、おばあさんが言いました。
「先生、あと一か月待ってくれ」
「なんで?」と、聞いた私にこう言いました。
「来月、三山ひろしのコンサートが鹿児島である。その後だったら、透析でも何でも受けるから、それまで待ってくれ」
私は、一も二もなく承諾しました。

ひと月後、三山ひろしのコンサートがどれだけ面白かったかを熱く語ったおばあさんは、最後にこう言いました。
「先生、透析がんばるよ。また次のコンサートに行きたいからね」 
今も維持透析のために通院されていますが、とても元気そうです。最近、廊下でばったり会いましたが「今年の春のコンサートにもいくよ」と、嬉しそうに話していました。

誰しも生きがいは大事です。高齢者にとってはなおさらのことでしょう。
そして私達も、何のために仕事をするのか、何を楽しみに仕事を頑張るのかということは、人それぞれだと思いますが、とても大切なことだと思います。
今月も、そのために頑張りましょう。