田上理事長の講話
令和6年3月

ある女性の話です。
85歳で狭心症、高血圧で通院することになりました。
90歳で杖歩行となり娘さんと一緒に通院するようになりました。
95歳で車いすとなり訪問診療にいくことになりました。
98歳で寝ていることがおおくなりました。
99歳でもまだ座ってご飯を食べていました。
100歳で「まだ逝けないね」と笑ってお話できました。

そんなある日の夜、娘さんから電話がかかってきました。
「具合が悪そうです。どうしたらいいですか?」以前から、急変時の対応については娘さんと話し合っており、在宅看取りを考えていたので、自宅で対症療法を行うことも提案しましたが、娘さんは病院受診を希望されました。救急車でいくとのことで、当直の医師に対応をお願いしました。翌日の朝に病院に来ると、朝方に亡くなられたとのことでした。
あの晩、私がすぐに駆けつけなかったことを反省しました。そして、自分で看取ることが出来なかったことを後悔しました。長いあいだ診させていただいた私が、彼女にしてあげられることはそれぐらいだったからです。
足取り重く通夜に参加しました。でも、娘さんは明るい笑顔で私に言いました。「大往生だったよ。先生、これまでありがとね」それを聞いた私は、娘さんに助けられたと思いました。促されて彼女の顔を見てみると、色とりどりの花に包まれたその顔は、寝ているようで、そして、少し微笑んでいるようにも見えました。私は、彼女にも助けられたと思いました。

医師になり30年近く経ちますが、まだまだ上手くいかないことはたくさんあります。患者さんやそのご家族と信頼関係を築けていると思っていても、それが一瞬で崩れるような苦い経験もたくさんしてきました。
病気が治って喜んでくれたら、それが一番ですが、良くならずに日々苦労している方も多くいらっしゃいます。そんな方々のためにも、この医師に会えてよかった、そして、この病院があって良かったと言ってもらえるように、今月もみなさんと頑張りたいと思います。

理事長 田上 寛容